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ムンデシン(抗悪性腫瘍剤)について

ムンデシンは「再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫」を効能とした新規の抗悪性腫瘍剤です。

末梢性T細胞リンパ腫(PTCL:peripheral T-cell lymphoma)は非ホジキンリンパ腫の一つでリンパ腫全体の約10%を占めます。もともと非ホジキンリンパ腫の数は少なく、末梢性T細胞リンパ腫の中にはさまざまな病型が存在し、頻度の高いものから順番に末梢性T細胞リンパ腫、非特定型末梢T細胞リンパ腫(PTCL-NOS)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic Tcell lymphoma:AITL)、未分化大細胞リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)の4種類に分類されています。

 

ALK陽性ALCLのみで、CHOP 療法(CPA(シクロフォスファミド (点滴)) , DXR(ドキソルビシン (点滴) ), VCR(ドキソルビシン (点滴) ), PSL(プレドニゾロン (内服)))が推奨療法としてガイドラインに示されていますが、それ以外の末梢T細胞リンパ腫では、CHOP療法は臨床試験(効能をまだ取れていない薬剤及びその組み合わせ)が推奨される程度で効果が実証されているものはほとんどないという状態です。

そのような背景の中、ムンデシンカプセルはプリヌクレオシドホスリラーゼ(PNP)の阻害することによってT細胞由来の腫瘍をアポトーシスに誘導する薬剤として承認されたものです。

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(引用:プレスリリース

添付文書情報

警告

本剤は,緊急時に十分対応できる医療施設において,造 血器悪性腫瘍の治療に対して十分な知識と経験を持つ医 師のもとで,本剤の投与が適切と判断される症例につい てのみ投与すること。また,本剤による治療開始に先立 ち,患者又はその家族に有効性及び危険性を十分に説明 し,同意を得てから投与を開始すること。

禁忌

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

効能・効果

再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫

<効能・効果に関連する使用上の注意>

  1. 本剤投与の適応となる疾患の診断は,病理診断に十分 な経験を持つ医師又は施設により行うこと
  2. 臨床試験に組み入れられた患者の病理組織型等につい て,【臨床成績】の項の内容を熟知し,本剤の有効性及 び安全性を十分に理解した上で,適応患者の選択を行 うこと

 

用法・用量

通常,成人にはフォロデシンとして1回300mgを1日2回経 口投与する。なお,患者の状態により適宜減量する。

(引用:ムンデシンカプセル100mg 添付文書

医薬品医療機器総合機構、薬事審議会での議論

 トランスポーターの存在に関して

機構はP糖タンパクによる能動輸送はないことしか実験を行っていないことから、今後も有用な情報が得られた場合には情報提供が必要であると考えている。
(ムンデシンは肝で代謝しないことから(ヒト肝ミクロソーム上で安定)で、P糖タンパクによる能動輸送もないことから他のトランスポータの実験を行わなかったとの回答に関する機構の考え方)

提出された臨床試験

評価資料は国内第Ⅰ相試験 1 試験、国内第Ⅰ/Ⅱ相試験 1 試験の計 2 試験を提出しています。参考資料として海外第Ⅰ相試験 4 試験、海外第Ⅰ /Ⅱ相試験 1 試験及び海外第Ⅱ相試験 3 試験の計8試験を提出しています。

海外の第Ⅰ相試験は食事の影響を検討したもの、腎機能低下の影響を検討したもの、体内使用率(経口と静脈内投与の比較)は健康成人(あるいは腎機能障害患者)を用いているところは制がん剤としては珍しいものです。(末梢性T細胞リンパ腫が希少疾病であることから許されたことかと思います。)

重要な試験

再発又 は難治性の末梢性T細胞リンパ腫患者を対象とした国内第Ⅰ/Ⅱ相試験(J02 試験)。機構としてはこの試験で有効性が示されたと報告しています。

難治性を効能として取り上げていいのか

J02試験は再発症例だけで、難治性に該当する例がなかったことから、薬事・食品衛生審議会 医薬品第二部会の委員の中には「難治性」を外すべきだとの意見が出ていました。

機構は末梢性T細胞リンパ腫の治療が全生存率に寄与するような治療がないこと、組織型によって治療体系に差がないことから、専門家のお医者さんが使うことに関しては許容範囲ではないかとの判断を述べました。

委員からは添付文書にしても問題が最初に記載されていない場合には、最後まで読まない場合があるとの意見が出ました。

結論は効能・効果の使用上の注意に記載するということで「難治性」も効能・効果に残すことになりました。

委員の中には稀少疾患ということを言い訳にして、添付文書の記載が曖昧になっている部分があるとの意見も出ていました。

難治性のPTCLに奏功を期待してでの承認となる事は理解できますが、先々何か重篤な有害事象があれば、この中にいる人たち皆が専門家としての責任問われるわけですよね。だからいつもこうして朝から怒っているわけです。 

 二次性悪性腫瘍について

機構はは血管免疫芽球性 T 細胞リンパ腫では、エプスタイン・バーウイルス(以下、「EBV」) 関連リンパ増殖性疾患又は EBV 関連悪性リンパ腫が一定の割合で合併することはしられているが、他の薬剤に比べて二次発癌のリスクが高い可能性があると判断し、患者の状態を注意深く観察(定期的な CT 検査による画像検査等)し、EBV 関連の二次発癌が疑われる場合には、直ちにリンパ節生検等を行って、適切な処置を取ることを添付文書で注意喚起する必要があると判断しました。

承認条件

医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。

国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集 積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景 情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正 使用に必要な措置を講じること。

 【参考】

審査結果報告書 平成 29 年3 月 10 日 

医薬品第二部会 平成29年3月3日開催 記事録

薬価算定

算定方式

類似薬効比較方式(Ⅰ)

比較薬

成分名:モガムリズマブ
会社名:協和発酵キリン
販売名:ポテリジオ点滴静注20mg 5mL
薬価:168,106円

算定薬価

ムンデシンカプセル100mg 2,617.80円
算定理由:比較薬の承認用法の8回投与の価格に対して、本剤の臨床試験での平均投与 日数を適用し1日薬価を算出し、ラステットのカプセルとラステット注の剤形での比較を適用して算出。
補正加算、外国平均価格調整なし(日本が最初に承認された国)

最後に

日本発かつ希少疾病医薬品のため有効性の評価を裏付けるデータが不足していますが、製造販売後調査でデータを集めることによって有効性を裏付けるという判断です。(難治性のPTCL-NOS、ATTL、ALK陰性ALCLで有効例なし、あるいは組み入れ症例なし。)

かなりリスクを含む判断で、医薬品第二部会の議事録では専門家がかみついていました。副作用が少なければいいのですが、重篤な骨髄抑制が生じており、EVB関連の二次性発癌が今後注意すべきリスクとしても上がっています。

薬価算定は原価算定方式の抗体製剤であるポテリジオ点滴静注20mg 5mLが比較薬になになっていますがなっています。ムンデシンカプセル100mgは合成医薬品です。原価計算方式の方が安くなっているような気がします。(高薬価が得られた場合には会社は府不服は申してないでしょうし)

希少疾病医薬品に関しては、開発意欲を持たせるためには結局、早めに承認して、患者の負担の元データを集めるしかないのは分かりますが、患者の立場に立つと臨床試験に参加しながら、薬剤費を払う必要があるということで少しつらいものがあります。