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ステラーラ点滴静注130mg(クローン病薬)について

ステラーラは皮下注45mgシリンジとして2011年3月に適応症「尋常性乾癬及び関節症性乾癬」で薬価収載されています。

さらに217年3月に「クローン病」について効能追加が行われています。

今回「中等症から重症の活動期クローン病の導入療法(既存治療で 効果不十分な場合に限る) 」の効能によって新剤形である「ステラーラ点滴静注130mg」が5月24日に薬価収載され、同日発売となりました。

クローン病の治療は導入療法と維持療法に分かれます。ステラーラは導入療法(既存治療で効果不十分な場合)をステラーラ点滴静注130mgを、維持療法をステラーラ皮下注45mgシリンジを使うことで一貫したクローン病の治療に使われることを目指しています。

ステラーラはヒト型IL-12/23p40モノクロナール抗体製剤です。従って、病的(乾癬、クローン病)なIL-12/23の作用を止めることによって、薬効を発現しますが、本来のIL-12/23の役割である宿主防御の役割を抑えると考えられます。

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添付文書情報

警告

1.本剤はIL-1の作用を選択的に抑制する薬剤であるため、感染のリスクを増大させる可能性があり、また 結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性がある。また、本剤との関連性は明らかではないが、悪性腫瘍の発現が報告されている。本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含め、これらの情報を患者に十分説明し、患者が理解したことを確認した上で、 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、本剤投与後に副作用が発現した場合には、主治医に連絡するよう患者に注意を与えること。

2.重篤な感染症
ウイルス、細菌及び真菌による重篤な感染症が報告されているため、十分な観察を行うなど感染症の発症に注意すること。

3.結核等の感染症について診療経験を有する内科等の医師と十分な連携をとり使用すること。

4.クローン病患者に本剤の治療を開始する前に、栄養療法、ステロイド、免疫調節剤等の使用を十分に勘案すること。また、本剤についての十分な知識とクローン 病の治療経験を持つ医師が使用すること。

禁忌

1) 重篤な感染症の患者[症状を悪化させるおそれがあ る。]

2)活動性結核の患者[症状を悪化させるおそれがある。]

3)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

効能・効果

中等症から重症の活動期クローン病の導入療法(既存治療で 効果不十分な場合に限る)
過去の治療において、栄養療法、他の薬物療法(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、アザチオプリン等)等による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与すること。

 用法・用量

通常、成人にはウステキヌマブ(遺伝子組換え)として、導入療法の初回に、以下に示す用量を単回点滴静注する。
体重55kg以下  投与量260mg
55kg超85kg以下    390mg
85kg超        520mg


機構での論点

有効性

評価試験は国際協力試験の2試験(抗TNF製剤に対する反応性別のプラセボ対照試験(3001)と既治療別のブラセボ対照試験(3002))でした。その結果、日本人の有効性と全体の有効性は一部違うように見える部分がありましたが、少数例ということで大きな問題とはなりませんでした。
3001試験 プラセボ 247例、130mg群 245例、6mg/kg群249例
日本人 プラセボ 18例、130mg群19例、6mg/kg群19例
3002試験 プラセボ209例、130mg209例、6mg/kg209例
日本人 プレセボ9例、130mg群8例、6mg/kg 9例

 

安全性

評価試験2試験を統合して検討しています。検討例数は全集団でプラセボ群466例、130mg471例、6mg/kg470例、内日本人はそれぞれ、27例、27例、28例となっています。

有効成分のヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体ウステキヌマブの性質から感染症の恐れがありましたが、結果としてはプラセボと変わりません。中止にいたった有害事象がプラセボ群で最も多かったのは病気の進行と考えられます。

基底細胞癌、皮膚有棘細胞癌、小腸腺癌・カルチノイド腫瘍が投薬群で発現したが、3001、3002試験の長期連用試験中の発現で、プラセボにも発生していることから本剤によるリスクの上昇は見られていないとの判断でした。

 

臨床的位置付け

臨床試験で明らかになったのは、5-ASA、ステロイド、免疫調整剤で効果不十分な患者を対象とした3002試験と抗TNF製剤が無効であった症例に対する試験の結果です。
TNF製剤が無効であった症例に対する効果はプラセボとの差異を認めず、効果を認めたのはTNF製剤の効果が消失あるいは弱くなったもの、不耐容であったものを対象にしたものだけでした。
TNF製剤との直接比較はなく、併用試験もないことから、一般的な治療が効果がなかったときの選択肢の一つではあるが、TNF製剤とは作用機序の差は明らかであるが、臨床的な有用性を今後明らかにする必要がある。

薬価算定

算定方式

類似薬価比較方式(Ⅰ) 補正加算なし

比較薬レミケード点滴静注用100

算定薬価 178,388円

外国平均薬価 260,298円

外国平均薬価調整 189,612円

特記事項なし

TNF製剤(࣭インフリキシマブ<レミケード>、アダリムマブ<ヒュミラ>、 セルトリズマブ ペゴル<シムジア:日本ではクローン病の適応を持っていない>)無効症例に使用しているが、初回治療無効例でプラセボに対する差が見いだせていないことから補正加算は取れていません。

最後に 

クローン病はTNF製剤が導入されたことによって、寛解率がかなり上がりましたが、結局は維持期から治癒にはいたってはいません。

今回のステラーラは作用機序が異なることから、寛解率が上がることを期待する人もいましたが、乾癬の効果比較からそこまで効果がある事を想定で着なかったのでしょう。可能性があれば比較試験を行って優位性を示して高薬価を取りに行っていると考えられます。

クローン病に関しては自己免疫疾患との位置づけで関節リウマチや乾癬に対する薬剤が応用されています。しかし、導入期の使用に関しても、維持期の使用に関してもプラセボ効果が一定数認められます。現在腸内細菌はかなり簡単に調べられるようになっています。実際にクローン病では酪酸を作る腸内細菌の減少が報告されていることからそちらからのクローン病に対するアプローチが存在するかもしれません。

腸内細菌叢とクローン病に関する参考文献

Ohno, H et al. commensal microbe-derived butyrate induces colonic regulatory T cells.Nature 10.1038/nature12721. 2013
大草敏史 腸内細菌叢の消化器疾患への関与 モダンメディア 60(11)325、2104
荒井万里 IBDおよびIBSにおける腸内細菌の関与 日本内科学会誌104(1)35、2015