オルミエント錠4mg、オルミエント錠⒉mgは日本イーライリリー社から2017年9月1日より製造販売されている関節リウマチ治療薬です。
作用機序は選択的JAK1/JAK2阻害薬で、ファイザー社のゼルヤンツ錠5mg(一般名トファシチニブクエン酸塩)に次いで国内では2番目の薬剤となります。
経口で使用できることから患者の利便性は関節リウマチの生物学的製剤と比べて上がっています。しかし、経口であるため、重篤な副作用がでた場合に対応が遅れる可能性があります。(特に一人暮らしの老人など)
国際共同試験に基づいての承認申請をヨーロッパ、アメリカ合衆国、日本の三局で同じ内容の試験データで行いましたが、ヨーロッパと日本ではそのまま承認され、アメリカ合衆国では追加試験が求められるという意外な事態になった薬剤でもありいます。
製品写真はプレスリリース「関節リウマチ治療薬 新発売のお知らせ選択的JAK1/JAK2阻害剤「オルミエント®錠 4mg、同2mg 」より引用
添付文書情報
警告(抜粋)
- 本剤が関節リウマチを根治させるものではなく、重大な副作用を起こす可能性を持っていることに関して患者にインフォームドコンセントを取ること。
緊急時の対応が緊急時の対応が十分可能な医療施設及び医師が使用すること。また、本剤投与後に有害事象が発現した場合には、主治医に連絡するよう患者に注意を与えること。 - 感染症
日和見感染などの致死的な感染症が報告されているので、十分な観察を行うこと。
結核が報告されているため、投与前、投与期間中は結核感染の有無を確認すること。結核が疑われる場合には結核等の感染症の専門家と相談の上、治療を行うこと。ツベルクリン反応検査等が陰性であっても、本薬投与後に活動性結核を発症した例が報告されている。 - 関節リウマチの第1選択薬としては用いない。少なくとも1剤の抗リウマチ薬等の使用を行ってから、本剤について十分な知識とリウマチ治療の経験を持つ医師が使用すること。
禁忌
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 重篤な感染症(敗血症等)の患者
- 活動性結核の患者
- 重度の腎機能障害を有する患者
- 好中球数が500/mm3未満の患者
- リンパ球数が500/mm3未満の患者
- リンパ球数が500/mm3未満の患者
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
効能・効果
既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
用法・用量
通常、成人にはバリシチニブとして4mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態に応じて2mgに減量すること。
審査報告書での論点
妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与について
臨床試験で本薬を投与しされた女性被験者のうち、治験期間中に群発的に妊娠した19例の追跡調査では被験者及び出生時の有害事象が認められているが機構は以下の理由で妊婦または妊娠している可能性のある女性にへの投与は禁忌とすると判断し、申請者も受け入れた。
- ラットは母体毒性が見られない用量から、骨格奇形があらわれていること。催奇形性のでない血中濃度は人の臨床用量(4mg)の2.3倍と安全性マージンとしては低い。
- ラットの器官形成期暴露による骨格奇形は回復性がない。
- 同一作用機序をもつゼルヤンツ錠5mgでは複数の動物で催奇形性が認められている。
日本人における血中濃度に関して
機構は、母集団薬物動態の関節リウマチ患者の比較では日本人集団において血中最高濃度が高い一方でAUCは低い傾向を認められたが、これは体重あたりの投与量の差に基づくものであるとの申請者の説明だけでは納得しなかった。健康成人及び関節リュウマチ患者では日本人と外国人で薬物動態的観点から本剤の有効性と安全性に影響を及ぼす可能性のある明らかな民族差は示されていないと判断した。
プロベネシドとの併用に関して
プロベネシドは尿酸排泄促進剤である。その作用はOAT3阻害作用に基づくものです。本薬と併用するとAUCが2倍になることから、機構は用量調節が必要であると判断した。
評価臨床試験
- MTX 効果不十分な RA 患者を対象とした国内試験(I4V-JE-JADN 試験)
- MTX 効果不十分な RA 患者を対象とした海外試験(I4V-MC-JADA 試験)
- TNF 阻害薬効果不十分な RA 患者を対象とした国際共同試験(I4VMC-JADW試験)
- cDMARDs 効果不十分な RA 患者を対象とした国際共同試験(I4V-MC-JADX試験)
- MTX 効果不十分な RA 患者を対象とした国際共同試験(I4V-MC-JADV試験)
- cDMARDs 未治療又は投与開始直後の RA 患者を対象とした国際共同試験(I4V-MC-JADZ 試験)
- 長期投与試験(I4V-MC-JADY 試験)
- 海外第Ⅱ相試験(JADA 試験)及び国際共同第Ⅲ相試験(JADZ 試験、JADV 試験、JADX 試験及び JADW 試験)を完了した RA 患者(目標症例数約 2,400~3,500 例)を対象
有効性に関して
評価臨床試験において、本剤4mgのプラセボに対して有効であること、MTX単独投与に対する本剤4mg単独投与の非劣性が検証されたと判断した。2mgに関しても優越性を検証を目的とした試験ではないが、一部試験でプラセボ群に比較して改善傾向が認められていることから、一定の有効性は期待できると機構は判断した。
安全性の評価資料
各試験の安全性成績、併合解析4mg RA PC(無作為割付けをされた4mg群とプラセボを含む試験の統合)、BARI 2mg vs 4mg RA(無作為割り付けされた 2 mg 群と 4 mg 群がある試験の統合)All BARIRA(評価試験すべて)で安全性を評価していた。
機構はさらに長期試験のデータを加えた安全性併合解析の結果を追加提出を求めた。
帯状疱疹について
機構は帯状疱疹に関して以下の問題を指摘し、製造販売後調査等で検討する
MTX単独群やアダリムマブ群よりも本薬投与群では高い発現率が見られている。
帯状疱疹の発現は4mg群が2mg群よりも高く用量依存性を示している。
日本人の帯状疱疹の発現率は外国人よりも高い傾向にある。
ウイルス再活性化について
臨床試験では、HBV キャリアや HBV DNA が検出された HBV 既感染患者は除外されているが、本剤投与群の中に複数の患者からHBV DNAが検出されている。また、CMV感染症例、EBV感染症例が認められていることから、ウイルス再活性が邪気される可能性は否定できない。他のJAK阻害作用を有する薬剤と同様に十分な注意が必要であると判断した。
結核について
ツベルクリン反応等の検査が陰性の患者において本剤投与後 に活動性結核が認められた例も報告されていることから、作用機序による結核感染防御機構に対する抑制がかかっている可能性は否定できないので、JAK阻害剤や生物製剤と同様に結核に対しては厳重な注意が必要であると機構は判断した。
悪性腫瘍に関して
2mg群(0.53/100人・年)よりも4mg群(1.19/100人・年)が高い傾向のある。これはリウマチ患者の悪性腫瘍発生率を上回るものではないが、用量依存的である事、観察期間が限られていることから悪性腫瘍に関しては既存薬と比較が可能な長期調査を実施する必要があると、機構は判断している。
治療歴のないリウマチ患者を対象にする件について
申請者はMTXに対して本薬4mgが有効性で非劣性を示したことから、治療歴のないリウマチ患者を対象にすることは可能と主張したが、機構は効果は非劣性を示しているが、以下の理由により未治療のリウマチ患者には使えないと判断した。
- 帯状疱疹の発生率が明らかに高いこと
- 安全性プロアイルは現在MTXが効果が不十分な場合に使用される生物製剤と同様で、MTXより劣る。
- 長期使用の安全性データが不足している。(悪性腫瘍の発現が否定できない)
専門家会議の追加意見
- 早期脱落の影響を加味して、関節の構造的損傷の抑制効果については投与16週までの結果について確認すべき。
結果として16週でも安全性は確認された。 - 高齢者において重篤な有害事象、投与中止にいたった有害事象が高いことは重視すべきで、慎重に投与するよう注意喚起すべきである。
- 2mgは投与の選択肢として採用すべきである。
医療医薬品第2部会での論点
FDAで追加試験を要求した理由
第二部会の議事録では、マスクしてあります。「全例市販後調査のためのバリシチニブ使用ガイドライン」によれば静脈血栓症の発症例数を考えるとリスク/ベネフィットに問題があるということで追加データが要求されているようです。
減量の時期について
委員から減量の意義について記載と根拠がわかりにくいという発現があり、添付文書の記載があらためられることとなった。
血小板の増加に関して
委員から血小板が高い症例で深部静脈血栓症の可能性に関して疑義がでた。
機構は血小板が用量依存的に増加するのは一過性であり、投与中にほぼベースラインに戻るという結果が出ていることと深部静脈血栓症を発症した例数は24例で、血小板数が高かった症例は1例で、毛一例は胃腸炎を発症後に深部静脈血栓症を起こしており、脱水による血小板数の増加の可能性も否定できないとの回答があった。
薬価算定方法
算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)
比較薬:ゼルヤンツ錠5mg 1日5mg 1日2回 薬価1錠2,611.50円
補正加算:なし
算定価格:2mg1錠 2,694.60円
4mg1錠 5,233.00円
外国平均価格調整:なし
最後に
オルミエント錠(一般名:バリシチニブ)は、ヤヌスキナーゼ(JAK)1 及びJAK2 に高い選択性を有するJAK阻害剤としてIncyte社が開発をすすめ、2010年からイーライリリーがその開発を行うようになったものです。
臨床計画ではMTXとの非劣性試験を行い、関節リウマチの第1選択薬を目指しましたが、欧州においても日本においても「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」との縛りがついています。
MTXも決して安全性が高い薬物ではありませんが、効果が非劣性で安全性で帯状疱疹などの発生率が高ければリスクとベネフィットを考えると第1選択薬としてはやはりMTXになるかと思います。
薬価的にも生物的製剤と同じぐらいになっていますが、経口剤というメリットがあります。
慢性関節リウマチで症状がでると障害者と認定されて低額で治療を受けることが可能になります。しかし、最近の研究では症状がでる前に生物学的製剤の治療をすることにより、関節の症状がでることを予防できることがいくつか報告がでてきています。このため、生物学的製剤とJAK阻害剤の高薬価が問題になる可能性があります。
参考文献・資料
- 関節リウマチ治療薬 新発売のお知らせ選択的JAK1/JAK2阻害剤「オルミエント®錠 4mg、同2mg 」
https://www.lilly.co.jp/_Assets/pdf/pressrelease/2017/17-41_co.jp.pdf - オルミエント錠4mg、オルミエント錠2mg 添付文書
http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/530471_3999043F1020_1_02
- オルミエント錠4mg、オルミエント錠2mg 医薬品インタビューフォーム
http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/530471_3999043F1020_1_1F
- オルミエント錠4 mg、オルミエント錠2 mg に係る医薬品リスク管理計画書
- 審査報告書
http://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20170724002/530471000_22900AMX00582_A100_1.pdf
- 第二部会 議事録
- 薬価算定
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000175058.pdf
- 全例市販後調査のためのバリシチニブ使用ガイドライン
http://www.ryumachi-jp.com/info/guideline_barishichinibu.pdf
- U.S. FDA Issues Complete Response Letter for Baricitinib
- Lilly to File Baricitinib Resubmission to U.S. FDA before end of January 2018
https://investor.lilly.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=1038612