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カナリア配合剤(2型糖尿病治療剤)について

カナリア配合錠はDPP-4阻害薬であるテネリグリプ チン臭化水素酸塩水和物(商品名:テネリア錠20 mg、製造販売元:田辺三菱、販売元:第一三共)とSGLT2阻害剤であるカナグリフロジン水和物(商品名:カナグル錠100 mg、製造販売元:田辺三菱、プロモーション提携:第一三共)を配合した2型糖尿病治療薬です。

糖尿病のガイドラインによれば、初回治療が不十分な場合には他の治療薬を併用すると記載されています。これは初回治療の選択の際に病態による第1選択薬を選択しているからと考えられます。

一般的には作用機序が異なれば、効果は相加的、相乗的にます場合と効果を打ち消し合う場合が想定されることから、併用による薬理試験も新医療用配合剤の承認申請には必要となります。

今回のカナリア配合剤はテネリア錠20 mgとカナグル錠100 mgの併用が市販後調査でもある程度効果と副作用が分かっているので、定型的な審議になるように思いますが、第一部会では結構議論が広がっています。

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(出典:ニュースリリース「国内初のDPP-4阻害剤とSGLT2阻害剤の配合剤
選択的DPP-4阻害剤「テネリア®錠」とSGLT2阻害剤「カナグル®錠」の配合剤
2型糖尿病治療剤「カナリア®配合錠」発売のお知らせ:2017年9月7日 田辺三菱)

 

 

添付文書情報

引用:カナリア錠配合錠 添付文書

 

禁忌

 

  1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

  2. 重症ケトーシス,糖尿病性昏睡又は前昏睡,1型糖尿病の患者

  3. 重症感染症,手術前後,重篤な外傷のある患者

 

効能・効果

2型糖尿病

ただし,テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物及びカナ グリフロジン水和物の併用による治療が適切と判断される場合に限る.

 用法・用量

通常,成人には1日1回1錠(テネリグリプチン/カナグリフロジンとして20mg/100mg)を朝食前又は朝食後に経口投与する.

副作用

国内第Ⅲ相試験において,300例中47例(15.7%)60件の副作用が認められた。

主な副作用は、頻尿、血中ケトン体増加、外陰部腟カンジダ症、便秘、口渇等であった。

重大な副作用
  • 低血糖
  • 脱水
  • ケトアシドーシス
  • 腎盂腎炎、敗血症
  • 腸閉塞
  • 肝機能障害
  • 間質性肺炎
  • 類天疱瘡 

審査報告書での論点

(引用:カナリア配合錠 審査報告書

単剤の併用と配合剤の生物学的同等性

生物学的同等性試験で、単剤の併用と配合剤の併用の生物学的同等性は示されている。

テネリグリプチンの食後投与による未変化体Cmaxの低下について

空腹時投与に比較して食後投与では24%Cmaxが低下する事についての機構の質問があった。

申請者はAUC(0~72hr)が食事の影響を受けないこと、食事の影響は胃内容排出速度の遅延による吸収速度の低下が原因である。

シグモイドEmaxモデルに基づいたPK/PD解析により、DDP-4阻害率が食事の影響を受けないこと。異常2点から食事に対する影響は少ないと考える。

機構はこの回答を了承した。

評価資料

日本人2型糖尿病患者を対象とした第Ⅲ相試験3本の成績が提出された。参考資料として、テネリグリプチン及びカナグリフロジンのインスリン製剤併用試験2本が提出された。

有効性について

各々の製剤の治療で効果不十分な患者に対して、切り替え群よりも併用群の方が優越性を示している。長期投与でも52週間にわたり効果が持続していること、併用と配合剤で生物学的同等性が示されていることから配合剤の有効性及び安全性が得られていると機構は判断した。

非外傷性下肢切断リスクについて

海外で実施中のカナグリフロジンの心血管系評価臨床試験の中間解析で非外傷性下肢切断リスクがカナグルフロジン100mgで0.73/100人・年、カナグリフロジン300mgで0.54/100人・年、プラセボ群0.30/100人との結果が出ている事に関しては、中間解析結果である事、他の海外試験では非外傷性下肢切断リスクが認められていないこと、カナグル錠の臨床試験や市販後報告で因果関係が明確な非外傷性下肢切断の報告がないことから、機構は本配合剤投与時の安全性は、テネリグリプチン及びカナグリフロジンの単独投与時と同様の注意喚起を行うことで差し支えないと判断した。

配合意義について

審査報告書では平成17年3月31日付けの「医薬品の承認申請に際し留意すべき事項について」が引用されているが平成26年11月21日に新しい局長通知が出ています。

医療用配合剤の必要条件は新しい通知でも変わっておらず以下のようになっています。

  1. 輸液等用時調製が困難なもの
  2. 副作用(毒性)軽減又は相乗効果があるもの
  3. 患者の利便性の向上に明らかに資するもの
  4. その他配合意義に化学的合理性がみとめられるもの

カナリア錠の場合には既に併用療法が承認されていること、同等性試験から化学的合理性は認められる。しかし、患者の利便性に関しては副作用錠数が減少することで、アドヒアランスが向上し、適切な血糖コントロールが期待できるとの申請者の主張は、実際の臨床の場で、確認されたものではないので、製造販売後に情報収集する必要がある。

特定使用成績調査の骨子

目的:使用実態下における長期投与時の安全性、有効性並びに本配合剤への切替えによるアドヒアフンスと有効性への影響を検討する。 

中央登録方式で対象患者は2型糖尿病患者、観察期間は12ヶ月感、予定症例数は750例。

主な調査項目:患者背景、本配合剤の投与状況・服薬アドヒアフンス、併用薬の投与状況、有効性評価(HbA1c等)、安全性評価(低血糖、体液量減少に関連する事象、多尿・頻尿、尿路感染、性器感染、肝機能障害、皮膚障害等)

再審査期間

既に付与されているカナグリフロジンの再審査期間の残余期間である平成34年7月3日まで。

医薬品第一部会での論点

(引用:2017年6月9日医薬品第一部会 議事録

心不全に関して

心不全の慎重投与は心機能の悪い人でQT延長が起こりやすいということで、心機能を低下させる訳ではないのかという質問に機構は心不全の患者での使用経験が臨床試験ではないので、潜在的な可能性として記載したと答えた。

この回答に対して、コメントがでた。「DDP-4阻害薬で循環器系の影響を見た大規模試験で サキサグリプチンでは心不全の発症が増加し、アログリプチンによる大規模臨床試験で、そのトレンドがあり、有意差はなかったものの、その可能性が否定できなかったということでFDAは警告を出している点はどう考えるか。」

FDAのDDP-4阻害剤の心不全発現に対する警告は大規模試験で結果が出たもののみ、警告が掲載されていることから、慎重投与としたと回答し、類薬での事象として記載する事となった。

併用の意義

委員から剤で効果が不十分だった場合に、すぐに2剤併用ですか、いろいろな薬効を持つ糖尿病の薬があると思うのですが、ある一つのもので効かなかったらすぐに2剤併用ということになるのでしょうか。確認です。

機構は2型糖尿病の治療では、1剤で効果不十分な場合、作用機序が異なる薬を上乗せして2剤を併用するというのが一般的ですと回答した。

委員からのコメント

「併用する選択肢もある、他剤に変更することもあるということですので、DPP-4阻害薬を御使用の方がSGLT-2を上乗せすることもできますし、変更して使用されることもあるということです。ただし、添付文書ではそこまで記載する必要はないので、単剤の使用をされていて効果不十分の場合には配合剤を使用することができる、そういう位置付けでよろしいのではないかと思いますので、ガイドライン上、特に問題ないと思います。したがって、多剤併用することはありますが、必ずしも多剤併用することが原則ではありません。」

配合剤の利便性について

委員から、期待はできるが、実証されていないことから新規医療用配合剤として基準を満たしていないのではという疑問に対して、機構は、期待できることで要件は満たしており、市販後に調査してあきらかにすると回答。

以下のコメントが出た。

降圧薬と少し事情が違うのは、糖尿病にはSick dayというものがありまして、例えば患者さんが発熱している、下痢をしている、体調が悪いというときに、食事を摂れる量が減ってしまうと、糖尿病治療薬を減らしたりやめたりすることがあります。今回のこの配合剤のカナグリフロジンとテネリグリプチンについては、一般にカナグリフロジンのほうが、つまりSGLT-2阻害薬のほうが利尿効果などもありまして、Sick dayのときにはやめたほうがよいと考えられていますので、それらを別々にやめることができないので両方やめなければいけないというデメリットを生んでいるということは、一つ先生方にも御理解をしていただく必要があります。もちろん、1個飲めば両方飲めるので平時はいいのですが、Sick dayのときにはやや使い勝手が悪い、デメリットを持っているということはお含み置きいただきたいと思います。

カナグリフロジンと非外傷性下肢切断リスクについて

FDAはカナグリフロジンに対してもプラセボに対して下肢切断リスクが2倍増加していることを注目している。足壊疽と下肢切断が違うイメージとして捉えられている可能性が高いことから、実地の臨床でも非外傷性下肢切断は起こっている(医者は足壊疽としか記載し、因果関係なしとしている可能性が高い)可能性を否定できないのではないか。

機構は市販後の安全部と検討すると答えた。

カナリア配合錠という販売名に関して

ほかの動物や鳥や車などの一般固有名詞と同じ名称の薬剤はちょっと記憶がないのですが、問題ないのかという疑問に関しては議長から医薬品審査課課長に回答を求められ、以下のような回答があった。

一般的な名詞と同じかどうかということについて、特段いけないなどというルールがあるわけではありません。何か混同されて、安全上問題があるというようなことが予想される場合には当然注意をいたしますが、そのほかには、この分野の商標登録等が可能かどうかなどということによってくるのだと思います。ですから、私どもの立場として、何か一般的な名詞と同様の販売名、ブランド名だからどうしても駄目かというと、なかなかそうは言い切れないのが実情です。

第一部会の議論対象ではないという意見もあったが、医療安全性の問題があれば第一部会で議論が必要で、医薬品の名称に関する会議でもこのようなケースを議論したことはなかったとの発言があり。結果としては今のところ大きな問題になるかどうか分からないと言うことになった。

薬価算定

(引用:新医薬品一覧表(平成29年8月30日収載予定))

算定方式:新医療用配合剤の特例「自社品の薬価の合計の0.8倍」(最初の後発医薬品の薬価は0.7倍)

単剤:テネリア錠20mg  薬価169.90円

   カナグル錠100 mg 薬価205.50円

算定薬価 300.30円

補正加算なし

最後に

新医療配合薬はかつて配合理由など厳しい条件をクリアする必要がありました。それが患者の利便性という項目が入ったことによって、効果が同等であれば(生物学的同等性試験の実施)と第Ⅲ相試験だけで認められる様になりました。

薬価算定は単剤の薬価の合計×0.8です。(新医療用配合剤の特例)後発医薬品は先発医薬品の薬価×0.7です。後発性医薬品は生物学的同等性試験だけですが、新医療用配合剤の場合には臨床試験が必要です。その差が0.1と言うところでしょうか。新医療配合剤が併用に比べて効果や安全性で上回るものであれば当然補正加算が加わります。

降圧剤の分野ではさまざまな組み合わせの新医療用配合剤がでてきました。

しかし、糖尿病薬の場合には第一部会で指摘があったように、Sick Dayに対する対応が難しいというデメリットがあります。

もうひとつ、新医療配合剤は本当にアドヒアランスに効果があるかどうかは臨床的なエビデンスがありません。例えば、高齢者でいろいろな薬を飲んでいる場合に5剤が4剤になったところで本当にアドヒアランスが期待できるでしょうか。

メリットとしては2割引になると言うことが、患者にとって一番大きなことかもしれません。

参考文献

渥美 義仁:糖尿病足病変の内科管理 と限界

糖尿病43(7)539-540、2000

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo1958/43/7/43_7_539/_pdf