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ザルトラップ(血管新生抑制剤)について

ザルトラップ(アフリベルセプト ベータ)は血管新生阻害剤としては3番目となる悪性腫瘍剤です。この新薬について紹介します。

 

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ザルトラップ 添付文書情報

国際誕生 2012年8月

販売開始 2017年5月

【有効成分】アフリベルセプト ベータ (遺伝子組換え)

【警告】(文章は省略しています)

  1. 緊急時に対応できる施設で、十分な知識・経験を持つ医師が投与が適切と判断した患者にインフォームとコンセントを得てから治療を開始する。
  2. 重度な消化管出血により死亡例があるので、十分注意すること。
  3. 消化管穿孔による死亡例があるので注意すること

【禁忌】(文書は省略しています)

  1. 本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者
    (筆者注:イリノテカン、レボホリナート及びフルオロウラシルとの併用療法以外は認められていないことから、
  2. 妊娠又は妊娠している可能性のある患者

【効能又は効果】(引用)

治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

 

【用法呼び用量】(引用)

イリノテカン塩酸塩水和物、レボホリナート及びフルオ ロウラシルとの併用において、通常、成人には2週間に 1回、アフリベルセプト ベータ(遺伝子組換え)とし て1回4mg/kg(体重)を60分かけて点滴静注する。なお、 患者の状態により適宜減量する。

引用元 ザルトラップ点滴静注100mg、200mg 添付文書

 

血管新生抑制剤とは

 がん細胞(腫瘍)は正常組織に血管を新生することにより、栄養を取り入れ増殖します。血管新生抑制剤はこの段階を阻害することによって、がん細胞に栄養がわたらなくして、腫瘍の増殖を抑えることを目的とした抗がん剤です。

 血管新生抑制剤にはがん細胞を死滅させる作用がないと考えられることから、その腫瘍に関する標準治療に血管新生抑制剤を加えることによって抗腫瘍効果を高めることが目的です。

 がん以外でも血管新生が問題となるのが糖尿病性網膜症ですが、現在のところ、アバスチンが研究的に日本で用いている眼科はありますが、効能追加の承認を取っていないことから、現在のところは血管新生抑制剤以外の治療をお勧めします。

 

ザルトラップが審査で検討されたこと

審査資料抜粋

ザルトラップの薬理学的特徴

 ザルトラップの構造は遺伝子組換え融合糖タンパク質であり、1~104 番目はヒト血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1 の第 2 免疫グロブリン(Ig)様 C2 ドメイン、105~205 番目はヒト VEGFR2 の第 3 Ig 様 C2 ドメイン、また 206~432 番目はヒト IgG1 の Fc ドメインからなる。アフリベルセプト ベータは、チャイニーズハムスター卵巣細胞により産生される。アフリベルセプト ベータは、432 個のアミノ酸残基からなるサブユニット 2 個から構成される糖タンパク質(分子量:約 115,000)です。

 先に承認されたアバスチン(中外:ベバシズマブ(遺伝子組換え))、サイラムザ(イーライリリー:ラムシルマブ(遺伝子組換え))がモノクロナール抗体であるのに対し、ザルトラップは遺伝子組換え融合糖タンパク質であること、血管新生の目的酵素であるヒト血管内皮増殖因子(VEGF)に対する作用点が異なります。

 医療器具医薬品医療機器総合機構(以下の機構)及び専門家委員会はは薬理学的な特徴は、前臨床試験の薬効試験と臨床試験ではその差が見いだせていないことから、薬理学的な特徴のみを強調して有効性に過大な期待を抱かせるようことのないようとの指示が意見が出て、サノフィも受け入れています。(医薬情報担当者がこのような発言をした場合には、そのようなことをいうと厚生労働省に怒られると伝えましょう)

妊娠又は妊娠している可能性のある婦人の取り扱い

 ザルトラップとサイラムザは妊娠又は妊娠している可能性のある患者は禁忌となっていますが、アバスチンは慎重投与になっています。

人のPPK(population pharmacokinetics)からの所見

 OS(全生存時間)とPFS(無増悪生存期間)はザルトラップの曝露量の増加に伴い増加しましたが、高血圧と出血の発現リスクが増加し、タンパク尿の発現リスクが低下しました。
(筆者注:このデータに関しては機構や専門会議は特に問題していません。PFSが長ければ治療期間が長くなります。曝露量を長くしたから効果が上がったのではなく、効果のあった人は曝露量が長かった可能性があるからではと推測します。長期間投与に寄り、タンパク尿の発現リスクが少なくなるは少し奇妙な感じがしますが、効果と同じかもしれません。高血圧はある域値をこえると発現する副作用かもしれません。出血に関してはイリノテカンが併用されているので、もう少し慎重な考察があってもいいと思います。

抗アリセプト抗体

臨床試験で血中動態に影響を与えた可能性があることが指摘されています。このことから、抗アリセプト抗体の発現と血中動態に関して引き続き情報収集をすることが必要と機構は考えています。

有効性と安全性に関する評価資料と参考資料

、国内第Ⅰ相試験 2 試験、国内第Ⅱ相試験 1 試 験、海外第Ⅲ相試験 1 試験の計 4 試験、また、参考資料として、表 22 に示す海外第Ⅰ相試 験 10 試験、海外第Ⅱ相試験 4 試験及び国際共同第Ⅲ相試験 1 試験の計 15 試験をサノフィが審査資料として提出しています。

機構が有効性の判断に用いた試験

VELOUR試験(L-OHP を含む化学療法歴を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・大腸がん患者を対象とした海外第Ⅲ相試験)と-OHP を含む化学療法歴を有する治癒切 除不能な進行・再発の 結腸・大腸がん患者を対象とした国内第Ⅱ相試験(EFC11885 試験)でした。

日本人の比較試験がないことの対応

 VELOURの試験の対照群から予後因子を抽出し、その予後因子に関する傾向マッチング方を用いて擬似的な対照群を作ることでサノフィは対応し、機構はその結果でハザード比が1をまたいでいないことから有効性に関して認めました。

日本人で高かった副作用

機構の判断では日本の試験で特に発現率の高かった、消化管障害(特に下痢)、好中球減少症・発熱性好中球減少症、高血圧、出血、過敏症、タンパク尿・ネフローゼ症候、血栓塞栓症、消化管穿孔・瘻孔については併用により、発生率が高まり、日本人での発現率も高いことから注意喚起が必要であると判断しました。
(筆者注:出血に関してはイリノテカンがその原因と思われますが、海外での2倍グラの発現率を示しています。UGT1A1* 6 遺伝子多型の分布においても人種差があることが判明しており、アレル(対立遺伝子)頻度において、UGT1A1* 6 は、白人ではほとんど検出されませんが、日本人において13.0-17.7%に検出されることが影響しエイル可能性があります。【参考】イリノテカン適正使用のお願い UGT1A1*6 及びUGT1A1*28 をもつ場合のご注意

薬価算定

 算定方式は類似薬効比較方式(Ⅰ)、比較薬はアバスチンです。補正加算はなしで、198,675円と算定されましたが、外国平均価格(米国は最低価格の2倍を超えているので、対象から外されています)が105,581円だったことから、外国平均価格調整が入り153,409円(200mg)となっています。

アバスチン(400mg)が158,942円、サイラムザ(500mg)が355,450円です。

投与量はアバスチンが1回5mg/kg又は10mg/kg、ザルトラップが1回4mg/kg、1回8mg/kgとなっているので、1回の薬価は体重60㎏で計算すると
 アバスチン  300㎎ 158,942円×0.6=95,365.2円
 サイラムザ  480㎎ 355,450円×0.96=341,232円
 ザルトラップ 240mg 153,409円×1.05=161,079.5円

となります。

サイラムザが極端に高くなっていますが、ザルトラップもそこそこの高薬価になっています。イギリスでは200mgが85,739円、ドイツでは125,423円ですから外国平均価格調整が入っていますが、それはかなり小さくなっていることが分かります。

【参考】新医薬品一覧表(平成29年5月24日収載予定)

(筆者注) アメリカでは政府ではなく、企業や保険会社が価格を決めているので、高すぎる場合には翌日から半額になる事もあります。逆に効果が素晴らしければとんでもない価格がつくこともあります。かなり前の話ですが、肝性昏睡にはじめてBCAA製剤に効果があるということで発売されたときは1本2万円でした。日本でついた薬価は1,200円ぐらいだったと思います。(効果があるアミノ酸輸液として加算がついてこの値段)

 日本は国民皆保険制度のお陰で高価な制がん剤を使用しても3割負担で、さらに月額医療費の足切りがあります。そのため高価な抗がん剤は保険財政に影響を与えるということがオプジーボが発売されたときに問題になりました。(オブジーボは希少がんで薬価をまず算定してもらい、効能追加では薬価の再算定がないというところで肺がんという数の多いがんでそのままの薬価だったことが問題で、その点に関しては行政は例外的に薬価を下げました。)

 効果はせいぜい同じレベルであり、多数で使われたときには思わぬ副作用がでる可能性があるし、高薬価だからザルトラップは採用しないという大病院もあります。