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インチュニブ錠(注意欠陥/多動性障害治療剤)について

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(塩野義製薬株式会社 プレスリリース「注意欠陥/多動性障害治療剤「インチュニブ®錠 1mg・3 mg」 新発売のお知らせ」より引用)

インチュニブ錠は注意欠陥/多動性障害治療剤(以下AD/HD治療剤)としては3番目の薬剤となります。選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬です。一般名は,グアンファシン塩酸塩で、徐放製剤にすることによって、AD/HD治療剤として承認されました。

即効製剤は本態性高 血圧症治療薬である「エスタリック®0.5mg」として販売されていましたが、2005年5月に販売中止となっています。

米国でシャイアー社(Shire plc)が2001年12月より臨床試験を開始し、2009年9月に承認を受けています。

日本ではシャイアー社からライセンスを導入した塩野義製薬が国内で臨床試験を行い、2017年3月30日に製造販売承認を受けました。薬価収載は2017年5月24日、発売は2017年5月26日です。

 

 

添付文書情報

製品名:インチュニブ®錠1mg・3mg錠
一般名:グアンファシン塩酸塩
効能・効果:小児期における注意欠陥/多動性障害
薬理作用:選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬

【禁忌】
1.本剤の成分に対し、過敏症の既往歴のある患者
2.妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
3.房室ブロック(第二度、第三度)のある患者

【用法・用量】
通常,体重 50kg 未満の小児ではグアンファシンとして 1 日 1mg,体重 50kg 以上の小児ではグアンファシンとして 1 日 2mg より投与を開始し,1 週間以上の間隔をあけて 1mg ずつ,下表 の維持用量まで増量する。
なお,症状により適宜増減するが,下表の最高用量を超えない こととし,いずれも1日1回経口投与すること。

 引用元:インチュニブ®錠1mg・3mg錠 添付文書

独立行政法人医薬品医療機器総合機構での検討事項

申請後に資料不足を指摘された項目

  • 臨床試験中の製剤と市販予定製剤の生物学的同等性試験の不足が判明。平成28年1月27日申請に対し、審査結果報告書が平成29年3月10日に提出と審議期間が1年延びたのはBE試験を追加実施したためです。

本剤の作用機序、特に既存のAD/HD治療薬との相違

  • 申請者は、AD/HD の病因は解明されておらず、AD/HD の病態と本薬の薬理作用との関連性は明確にはなっていない。
  • 基礎試験の結果から、本薬は主に中枢神経系に発現するアドレナリン α2A 受容体に作 用し、前頭前皮質のノルアドレナリンシグナルを増強することにより、多動性、衝動性及び注意欠如等 の AD/HD 症状を改善すると考えること、降圧効果と独立して有効性を示していることを説明、脳血流量も増やす可能性も説明しました。
  • メチルフェニデート塩酸塩(コンサータ錠)はドパミントランスポータを、アトモキセチン塩酸塩(ストラテラカプセル)はノルアドレナリントランスポーターとセロトニントランスポーターを阻害することによって、前頭前皮質でのノルアドレナリン及びドパミン濃度を上昇させて効果を発揮していると説明。
  • 機構はその説明で適切に考察されていると考えています。

妊娠又は妊娠している可能性のある婦人の取り扱い

機構は降圧剤として同成分が用いられていたときの添付文書に禁忌として、妊娠又は妊娠している可能性のある婦人が今回の添付文書案では禁忌としていないのは不適切であると指摘しました。

外国人と日本人の血中濃度の違い

機構は外国人を対象とした連続投与試験と日本人を対象とした連続試験において、外国人の血中パラメーターが高用量では急激に増加し、日本人では線形を示していたことから、血中パラメータの人種差の存在に関して質問しました。

  • 会社側はそれ以外の血中濃度を測定したデータを示し、人種差が見られていないこと、外国人の連続投与試験で4例のみに高値を示す例(総評価例数は11例)があったために見かけ上そうなっているように見えるだけと答え、機構は納得しています。
  • 【筆者注】生物学的同等性試験は1例でも変わった血中濃度を示すと、生物学的に同等にならず「生物学的同等性試験のガイドライン」にそって例数の追加を行いことになることが散見されます。特に新薬で臨床試験用製剤と市販用製剤の同等性試験をみる試験で最初から12例で行うとやり直しになり、この失敗に関しても申請資料に記載する必要があるので、開発担当者と製剤の研究者はよくもめます。

評価試験の扱い

試験薬剤は錠剤ですので、体重25kg以上50kg未満、50kg以上75kg未満、75kg以上で用量調整をおこなっています。


【筆者注】錠剤で少量(1日あたり0.04mg/kg)で効果があるので用量調整が必要になります。これをやっておかないと解析の際に女性と男性で効果に差が出たりします。(女性の方が体重が軽い傾向にあります)今回は有害事象に致命的なものはありませんが、経口制がん剤で第2相試験において、女性に特に効果があるという解析結果が出たことがあります。しかし、体重あたりの投与量で見ると有効例では高く、そういう人が女性に多かっただけだったということもあります。今回の試験は6歳以上18歳未満を対象にしているので、体重による用量調節は大切です。
そのため、添付文書にも体重と投与量の表が掲載されています。

評価試験で体重調整を行った結果体重25kg以上50kg未満群で最低用量に登録例がなかった。そのため、体重の分布に最低用量群のみ差異が見られた。そのため、プラセボから体重25kg以上50kg未満の例を除いた解析を行ったところ、最低用量群はプラセボとの有意差がなくなりました。


 機構はこの件に関しては適切な製剤を開発した上で検証試験を行うべきで、データとしては本来受け入れられるものではないとしたが、ドラックラグの問題から今回はアドホックな(症例登録のなかった群をプラセボから除く解析)解析で受け入れることにし、参考資料として提出された海外試験も件と資料とすることとしました。
このため、会社は外国人と日本人のAD/HDの有病率、薬剤の効果、薬剤の安全に対する解釈に対する回答を行う必要が発生しました。

機構は、本来AD/DHは学校生活に問題があることから、治療するのが目的であるのに、判定をなぜ医師が行ったかについて説明を求めました。

評価は教師の評価も必要ではなかったか

・会社側は医師が学校での様子を入手できるようなチェックシートを配布し、回収率は81.8%であったこと。
・海外データでは主として医師の判断が用いられており、教師の判定と医師の判定を比較したところ差がなかったことが示されていること。
・教員ひとりあたりの児童・生徒数は18.5(日本)人、アメリカ14.5人であること。

会社側機構はこの回答を受け入れたが、製造販売後に調査することを要望した。

【著者注】継続試験はプラセボも同じく行ったため、年齢による多動性の自然治癒がデータ的にもうかがえることとなった。ストラテラカプセルは実薬群だけの継続試験で長期投与による効果をうたっていたが、インチュニブ錠では長期試験開始時にプラセボ群31.4対25.9でしたが、51週時では19対13であった。LOCFでは22対10でした。
機構は中枢性の副作用が多動性を抑えている可能性に関して質問しましたが、追加解析により、そのようなことはないという会社の説明に納得しました。
休日の休薬や維持用量に達している際に急に中止することは心臓に対する副作用がでる可能性が高くなることから、添付文章に「中止を行う場合は、注意深く観察し、漸減すること」との記載を入れることになった。

特定使用成績調査について

特定使用成績調査は1)1300例を対象とした中央登録方式の安全性と有効性の情報を収集する。2)75例を対象とした教師評価と医師評価の比較と安全性の情報収集となった。

【筆者注】2)に関しては特定使用成績調査となっています。本来ならば、販売後臨床試験として実施して、現在日本ではほとんどデータのない教師評価と医師評価の違いをデータとして持てる機会と思います。最近は特定使用成績調査のコストも問題になっているので、仕方がないかもしれません。厚生労働省と文部科学省が税金を使ってでもやるべき試験ではないかと思います。(薬剤は製薬会社が提供するとして)
参考資料
インチュニブ®錠1mg・3mg錠 審議結果報告書

 薬価算定について

算定方式:類似薬効比較方式

補正加算:なし

比較薬 :ストラテラカプセル 40mg(461.20円)

調整前薬価:3mg錠 558.10円(国内長期投与試験における維持投与量の平均値を基に算出)、

外国薬価:米国1,270.60円(平均から除外)
     英国 339.30円
     独国 487.50円

算定薬価 1mg錠 412.20円、3mg錠 544.30円(外国平均価格調整あり)

参考資料
新医薬品一覧表(平成29年5月24日収載予定)

AD/HDにおけるインチュニブ錠の位置付け

機構の判断ではコンサータ、ストラテラ、インチュニブともに第1選択薬と判断されています。しかし、安全性の観点から急に中止すると心臓系の副作用がでることがあるので、漸減法にする必要があることから安全性から見ると第二選択薬であるとの機構の判断です。

AD/HDの薬物療法はNHKの番組でとても怖いものという感じを与えています。実際にはNHKの番組は自閉症も含んだ小児の精神病や発達障害に関して、安易に大人向けにしか開発していない抗不安薬などが使われており、多動性は今回の審議でも問題になった鎮静に関する副作用で抑えていることが問題であると筆者は考えています。

また、学校の先生ひとりあたりの児童数が減ったことにより、AD/HDではない子供でも問題児として学校では支障をきたすので、地域のセンターに相談してくださいと親に伝えることが多くなっていることも問題です。地域のセンターでAD/HDの手前、あるいは軽度の場合には行動認知療法でかなり改善することを知らずにすぐに医師の診断を求め場合があります。

AD/HDの検査は心理士あるいは医師による聞き取りによる検査から始まります。これは時間がかかることからすぐに薬物療法を採用するお医者さんがいることは否定できません。

コンサータは効果が早く出ますが、ストラテラ、インチュニブは効果発現までに時間がかかります。コンサータは即効性薬剤であります。しかし、コンサータは食欲不振の副作用が必発で給食を食べることができません。

AD/HDの治療目的は社会的スキルを身につけることにあります。薬物療法はその手助けをするだけで、薬物を飲むことによって、社会的スキルがつくわけではなく、社会的スキルをつける状態に本人を持って行くという役割を本人と親、先生が理解することが非常に大事になります。

参考資料

“薬漬け”になりたくない ~向精神薬をのむ子ども~
文部科学省
発達障害者支援法の施行について
医療現場における発達障害の診断と治療の実際
-特に薬物治療とその作用を中心に-「注意欠陥多動性障害 ADHD」
第104回日本精神神経学会総会(2009年)
ADHD治療システムの中の薬物療法、その意義と限界
Forum on Mordern Education No.18 2009
障害者解放理論から「他社への欲望へ」
児童自立支援施設における発達障害のある児童生徒への指導・支援に関する研究
Asian Journal of Human Services,VOL.6 81-9