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スインプロイク錠(オピオイド誘発性便秘用剤)について

 スインプロイク錠はオピオイド誘発性の下痢に対して、末梢のμオピオイド受容体に対する拮抗作用をもつ新しい作用機序を持った薬剤です。

 オピオイドはその鎮痛作用の発現用量の1/50で便秘が発現し、1/10量で悪心・嘔吐が発現することが知られています。疼痛管理の切り札として使われるオピオイドですが、この二つの副作用に眠気を加えたものがオピオイドの3大副作用とよばれます。特に便秘は耐性が生じにくいことから、対症療法で切り抜けているのが現状です。(悪心/嘔吐は耐性ができやすいので、2週間程度で消失します。

 オピオイドの副作用を回避するための剤型変更が行われています。今日オピオイドであるフェンタニルや弱オピオイドにの貼付剤です。便秘や悪心・嘔吐の頻度が減るようですが、血中から消化管に回れば便秘や悪心・嘔吐が発現します。

 末梢でのμオピオイド受容体の拮抗剤という新規の作用機序をもつ便秘薬として販売されたのが塩野義製薬のスインプロイク錠0.2mgです。強オピオイドであるモルヒネを販売している会社としてはモルヒネをもっと使いやすくする(副作用による中止を減らす)という観点からは欲しかった薬剤だと思います。

 

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製品写真 引用:塩野義製薬プレスリリース

 

 

添付文書情報

【禁忌】

  1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  2. 消化管閉塞若しくはその疑いのある患者,又は消化管閉塞の既往歴を有し再発のおそれの高い患者[消化管穿孔を起こすおそれがある。]

【効能・効果】
オピオイド誘発性便秘症

【用法・用量】
通常,成人にはナルデメジンとして 1 回 0.2mg を 1 日 1 回経口投与する。

審査報告書情報

食事の影響に関して

 オピオイドにより疼痛管理を行うのはがん患者が多いことが想定されます。がん患者の場合には癌種によっては食事が不規則になる可能性があります。

 健康成人を対象とした臨床薬理試験では空腹時投与では最大血中濃度が35%減少し、最大血中濃度到達時間も0.75時間から2.50時間に延長しています。

 しかし、患者を対象とした第Ⅱ相試験と第Ⅲ相試験では食事摂取の有無を問わずに投与したが、有効性、安全性に食事の影響が見られなかったことから機構は実際の治療の場では食事に有無にかかわらず投与可能であるという会社の説明を了承しました。

対象患者に関して

 がん患者に対してはプラセボ対照二重盲検比較試験(投与期間2週間)と非盲検非対照試(投与期間12週間)が行われています。

 非がん性慢性疼痛患者は独立した2試験(投与期間48週間)が行われています。

 試験結果は良好ですが、効果判定が2週間後である事かはがん患者においての治療方法(さまざまな治療法が行われている可能性があり、効果によって治療法が変わる、2週間であれば治療法が変わる可能性が少ない)を考えると妥当であると考えられるが、効果の持続性に関しては情報が少ない。

併用オピオイドの種類と定時緩下剤の違いに関して

がん患者と非がん性慢性疼痛患者の試験をそれぞれ併合してもがん患者でも非がん性慢性疼痛患者においても有効性に差がなかった。

非がん性慢性疼痛患者の症例数に関して

 日本においては非がん性慢性疼痛患者にオピオイドを用いることはあまり一般的ではないことからプラセボとの比較試験を行うことはできず、2試験でも53例しか収集できていない。海外でプラセボ対照二盲検比較試験を行い、プラセボ群272例、本剤2.0mg(それぞれFAS)を行い、プラセボに対する優越性を示しているとの会社の説明に対して機構は有効性が期待できるが、日本人での長期間の例数が少ないことは間違いない。

主要な副作用は下痢

 がん患者、非がん性慢性疼痛患者においても軽度な下痢が4人に1人程度、中等度な下痢ががん患者で1~4%、非がん性慢性疼痛患者で11%見られている。休薬等の処置を行うことで回復していることから、重度な下痢の場合に処置を行うことを添付文書で注意喚起する必要があるとの機構の判断でした。

 専門部会では下痢の症例も有効例に入っている可能性が指摘されましたが、下痢は軽度あるいは中等度でベネフィットを覆すほどのものではないと機構は答えています。

(筆者注:がん患者の下痢の発現率と非がん性慢性疼痛患者の下痢の発現率を有害事象で比べると、がん患者の場合にはがん治療剤の影響で高くなっているかと思いましたが、ほぼ同じでした。非がん性慢性疼痛患者の場合には例数が少ないためか軽度と中等度のでは中等度の割合ががん患者に比べて多いような気がします)

消化管穿孔について

海外の類薬であるmethylnaltrexone bromide(対象 疾患:非がん性慢性疼痛患者)で消化管穿孔が報告されているので、機構は消化管穿孔に関する会社の説明を求めました。

機構は国内外の本薬の臨床成績から消化管穿孔関連事象(腹部不快感、腸炎なd)はプラセボ群と差がないことから現時点では問題がないとしています。

オピオイド離脱症候群及びオピオイド鎮痛作用への影響

機構は臨床試験からは可能性は小さいと考えています。しかし、脳血液関門が働いていない患者(脳腫瘍等)では、添付文書による注意喚起が必要であると判断しています。

低用量製剤の必要性と中止時期

 臨床試験では0.1mgで効果が出ている例もあるので、製造販売後に低用量製剤の必要性を検討することが望ましいとされた。

 専門部会は作用機序から考えて、オピオイド投与中止とともに本薬を中止するように添付文書で注意喚起が必要とされた。同じく、オピオイド開始とともに予防的に用いることに関しては試験が行われていないので、判断できないと機構は答えています。

【参考】 2017年2月9日 薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会 議事録

薬価算定

 算定方式:類似薬効比較方式(Ⅰ)

 比較薬 :アミティーザカプセル24μg

 算定薬価:247.0×有用性加算(II)(A=10%)=272.10円

 加算理由:既存の緩下剤と異なる作用機序を持ち、臨床試験で定時緩下剤で効果不十分な患者を含めてて、一定以上の便秘症状を有するオピオイド誘発性便秘症患者に有用性が認められていること。

最後に

 既存の定時緩下剤に関しては、エビデンスが内という問題があります。しかし、予防投与により、便秘の初便率が36%から16%に減ったとの文献(Ishihara M. et al. Pharmaceutical interventions facilitate premedication and prevent opioid-induced constipation and emesis in cancer patients, Support Care Cancer. 18 :1531-1538. 2010)もあります。

 スインプロイク錠の場合は作用機序もオピオイド誘発性便秘に合わせたものになっていますが、定時緩下剤をなくすことができるかどうかが問題になってくるかもしれません。

 この薬はオピオイドを使っていない便秘には無効です。

その他参考資料

「緩和ケアにおける便秘治療の エッセンス」

スインプロイク錠0.2mgインタビューフォーム

わが国の医薬品副作用データベースに基づく強オピオイドによる副作用の特徴解析―モルヒネ・フェンタニル・オキシコドンによる副作用の発現傾向と特徴―
Palliative Care Research Vol. 10 (2015) No. 1 p. 113-119