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ニンラーロカプセル(抗悪性腫瘍剤)について

 ニンラーロカプセル(一般名:イキサゾミブクエン酸エステル)は経口の低分子20Sプロテアソーム阻害剤です。

 20Sプロテアソームは細胞がタンパク質を分解する重要な働きをします。このタンパク質は細胞の増殖制御や細胞周期調節、アポトーシスに関連するタンパク質を分解するといわれています。プロテアソームの働きを阻害することによって腫瘍をアポトーシスに向かわせ、効果を示すと想定されています。

 この物質は武田薬品工業株式会社のがん関係の研究をしているMillenium社によって創製されたもので、20Sプロテアソーム阻害剤としては初めての経口薬であることが特徴です。

 併用薬とともに使われることから、1シート1カプセルずつ包装したパッケージを採用しています。このパッケージは公益社団法人日本包装技術協会より、「2017日本パッケージングコンテスト アクセシブルデザイン包装賞」を受賞しています。

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引用元:武田薬品工業プレスリリース

 

 添付文書情報

警告

【警告】本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、造血器悪性腫瘍の治療に対して十分な知識と経験を持つ医師のもとで、本剤が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその 家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。

  新規抗悪性腫瘍剤の警告としてはお決まりの文章です。副作用の少ない分野の薬剤では注射剤しかない場合に経口剤がでると患者の利便性が向上することで評価されます。しかし、副作用の多い抗悪性腫瘍剤の場合には、経口剤ですと家庭で服用することが多くなり、副作用の処置が遅れるリスクによって、あまり評価されない場合があります。

 禁忌

  1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  2. 妊婦又は妊娠している可能性のある女性

効能・効果

再発又は難治性の多発性骨髄腫

 再発・難治性多発性骨髄腫の治療成績はサリドマイド(THAL:サレドカプセル(藤本製薬))やボルテゾミブ(BOR:ベルケイド注射用(ヤンセンファーマ)),レナリドミド(LEN:レブラミドカプセル(セルジーン))、ポマリドミド(POM:ポマリストカプセル(セルジーン))の発売以降上昇しています。

 この4種類の薬剤はそれまでの大量デキサメタゾン治療に比べて、効果が高いことが臨床試験で示されていることから、造血器腫瘍診療ガイドライン第Ⅲ章Ⅲ骨髄腫1多発性骨髄腫に再発・難治性多発性骨髄腫の第1選択薬となっています。

用法・用量

レナリドミド及びデキサメタゾンとの併用において、通常、 成人にはイキサゾミブとして1日1回4㎎を空腹時に週1回、3 週間(1、8及び15日目)経口投与した後、13日間休薬(16~28日 目)する。この4週間を1サイクルとし、投与を繰り返す。な お、患者の状態により適宜減量する。

【参考】

ニンラーロカプセル 添付文書

造血器腫瘍診療ガイドライン 第Ⅲ章 Ⅲ-1.多発性骨髄腫

 

医薬品医療機器総合機構での審議結果

承認条件

  1. 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
  2. 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象にい使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。

 他のプロテアソーム阻害剤と作用機序の違いの有無

 機構はポルテゾミブとカルフィルゾミブの差異にに関しては今のところ薬理学的な情報が限られている。しかし、適正使用の観点からは有益な情報が得られる可能性があるので、今後も情報収集を続けるよう要望しています。

食事の影響

 食後投与で血中濃度が低下するので、第Ⅲ相試験では、投与時期を「食事の1時間以上前又は食事の2時間以上後」としたことから、添付文書の用法・用量の注意事項にその旨記載することとなった。

有効性及び安全性の主要な評価を行った試験

  評価資料として提出されたのは国内第Ⅰ相試験1試験、国際共同第Ⅲ相試験1試験、海外第Ⅰ相試験7試験と海外第Ⅰ/Ⅱ相試験1試験です。

 参考資料として提出されたのは海外第Ⅰ相試験3試験と海外第Ⅰ/Ⅱ相試験1試験です。

 海外の第Ⅰ相試験が多いのは腎機能や肝機能の影響を検討した試験が含まれているからです。また、現在は自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が第1選択となっている患者に対する試験を行っているのが海外第Ⅰ/Ⅱ相試験です。

 機構が評価上重要と判断したのは国際共同第Ⅲ相試験です。日本人に対する効果はこの試験で全体集団と日本人集団との間で一貫性の観点から検討することになっています。

機構が提出者の判断に対して追加確認を行った項目

有効性の評価項目

 第Ⅲ相試験の主要評価項目はPFS(Progress Free Survival:無増悪生存期間)としていました。機構は標準的な治療が確立していない再発・難治性の多発性骨髄腫に対する治療効果の評価にはOS(Over all Surevivail:生存期間)も重要と考える事から、PFSを中心に評価するが、OSについても確認することとした。

【注】PFSとOSではPFSで承認されると話題になるぐらいOSが問題となります。しかしどちらもバイアスがかかる可能性があります。PFSに関しては増悪の有無に関する検査の頻度によってバイアスがかかります。検査間隔が大きい場合には、その前の検査までの期間がPFSとなります。しかし、検査間隔を小さくする場合には患者さんに負担をかけることになります。OSに関してはその後の治療の選択がバイアスになる場合があります。また、がん死以外の死亡をどう考えるかも問題になります。

日本人の結果について

 全体集団は薬剤投与群が360例で、プラセボ投与群が362例が評価対象になっています。そのうち日本人の集団は薬剤投与群が20例、プラセボ群が21例でした。

 結果は全体集団ではPFS、最良総合効果ともに薬剤投与群が統計学的に優れていましたが、日本人集団では統計的には判断できませんが、見た目はプラセボが優れているという結果で、機構は日本人と全体集団との間で本薬の有効性の一貫性は確認できていないと判断しました。

骨髄抑制

 プラセボとの比較で、血小板減少症の発現率が高い可能性があると機構は判断しました。

【注】骨髄抑制で白血球減少症も出ていますが、プラセボとほとんど同等です。(プラセボ群にも薬剤が投与されているため)骨髄抑制で注意が必要なのは白血球減少による発熱と感染です。多くの殺細胞性の抗腫瘍薬はかつてはこのため死亡例が出ていましたが、現在はG-CSF等の投与で死亡にいたることは少なくなっています。血小板減少は出血の可能性があり、副作用に対する治療も確立したものはありません。

専門協議での追加指示

 1サイクルにおける併用薬剤を含めた投与方法が複雑である事から、患者向けの資材等を用いた工夫が必要である。

再審査期間

 10年(希少疾病用医薬品に指定されていることから)

【参考】

審査結果報告書 2017年3月10日付

薬価算定

算定方式

類似薬効比較方式(Ⅰ)

比較薬

カイプロリス点滴静注用40mg(小野薬品)薬価86,255円

調整前算定薬価

8,0443.円 補正加算なし

最終薬価

160,885円 外国平均価格調整による。

米国 378,012円 英国306,240円 外国平均342,126円

最後に

 例数が少なかったためもあるかもしれませんが、国際共同試験で日本人集団の効果は確認されていません。多発性骨髄腫は希少疾病ですので、製造販売後調査(全例調査)で結果が明らかにすることが重要と考えます。

 第Ⅲ相試験は継続して行われているので(一部症例ではPFSが求められていない)その最終結果も興味が持たれます。

 薬価算定で比較薬となったカイプロリス点滴静注用は薬価収載が2016年8月ですから、比較試験はありません。レナリミド及びデキサメタゾンとの併用でどちらを選択するかはレナリミドとデキサメタゾンが経口薬なので便利ですが、どちらも血小板減少という血液検査をしないと不明な副作用があるので、カイプロリス点滴静注用は注射を打ちにくるときに検査ができるというメリットもあります。